<数> 歴代の電卓に宿るカシオデザインの原点
樫尾俊雄発明記念館 vol.1
カシオ計算機を創業した樫尾四兄弟の一人で、多くの名作を生み出した発明家・樫尾俊雄。
その功績を今に伝える樫尾俊雄発明記念館に、今年入社2年目のデザイナーがベテランのデザイナーと訪問してきました。
日本の電子産業の発展に寄与してきた名作を前に、感じたこととは。
左:入社2年目デザイナー ダイさん 電卓のプロダクトデザインを担当中
右:ベテランデザイナー 井田さん 楽器・電卓・デジカメ・パッケージなどのデザインマネジャーを歴任
カシオの原点「発明の部屋」
東京・成城にある樫尾俊雄発明記念館。もとは樫尾俊雄の私邸であった建物で、現在は予約制で一般公開されており、こだわりを尽くした内装や調度品が訪問客を迎え入れてくれます。館内は、部屋ごとにテーマを分けて展示。最初の「発明の部屋」には、カシオ計算機が生まれたきっかけとなった世界初の小型純電気式計算機「14-A」が展示してあります。
「発明の部屋」の入口正面に置かれた「14-A」は、1957年に製造された世界初の小型純電気式計算機。当時としてはとても小型だった。
本来は隠されていた背面部の様子を覗ける仕様に。内部に配列された341ものリレー素子が複雑な計算を可能にした。
「発明」の中に感じるデザインの視点
ダイさん「たくさんのリレー素子がカチャカチャと音を立てながら計算していく様子を見て、衝撃を受けました。生まれたときからデジタル表示が普通でしたから」
井田さん「今では当たり前となった電卓のテンキー配列も、この『14-A』がルーツ。ブラインドタッチによるすばやい操作を実現するために考え出されたもので、まさに発明家ならではの発想です」
ダイさん「5の部分には凹みがあるから目視しなくてもキーの位置がわかるようになっています。“世界初”の段階で、現代にも使われているデザイン要素を取り入れていたんですね」
井田さん「計算機とオフィスデスクを一体化させたのもアイデアだし、計算機部分のフォルムやデザインにもエルゴノミックな要素をふんだんに感じます。俊雄さんは『発明家』でしたが、それでも魅力的なデザインが生まれていました。カシオの発明精神には、その根幹からデザインの視点も組み込まれていたと気づきます」
電卓の進化が一目瞭然「数の部屋」
「発明の部屋」の奥にある「数の部屋」には、半世紀以上かけて製造された歴史的な電卓が展示されている。発売60周年を迎える電子式卓上計算機の1号機も展示されている(右)。
ダイさん「この1969年に発売された『AS-A』はおもしろいですね。横長だし、木目を使っているのもオシャレ。『AS-8』のフォルムもSF映画に登場する宇宙船みたいでかっこいいです」
井田さん「高級感を出すために木目を用いたり、スポーツカーで用いられる流線形のデザインを取り入れたりと、このあたりからデザインの力が色濃くなってきてます。事務機器だった電卓に、だんだんと審美性が求められるようになったんですね」
一課に一台といわれた電卓を、一家に一台、一人に一台へ。
電卓の歴史を変えた「カシオミニ」
ダイさん「1972年に発売された『カシオミニ』に、特にデザインの力が色濃くなってきたのを感じました。一般ユーザーに向けたデザイン的な配慮があるんです」
井田さん「若い人は知らないかな? 『答え一発』というキャッチコピーで、世界初のパーソナル電子計算機として大ヒットしたんですよ」
ダイさん「テンキーを丸型で表現したり、持ち運びやすいようストラップを付属させていたりと、業務用ではなく一般ユーザー向けのデザインだと強く感じます」
井田さん「デザイン室が動き出したのがこの頃で、『カシオミニ』はのちの室長がデザインしたんです。今見ても、ユニークですよね」
業務用だった電卓を、初めて一般ユーザー向けとして販売した「カシオミニ」。発売後10ヶ月で100万台、シリーズ累計1,000万台を売り上げる大ヒット商品となった。
自らニーズを作り出していくアイディアの数々。名刺サイズのカード型電卓も誕生。
計算回路の小型化や省電力化によって、電卓はますます小型に。1957年の「14-A」と1983年のカード型電卓「SL-800」を比べてみると、31年の間に重量は1万分の1以下、消費電力は約1500万分の1になりました。
ダイさん「最初の『14-A』から、あっという間に手の中に収まるサイズになってしまったというスピードに驚きます。カード型電卓は種類も多いですし、デザインも多様ですね。」
井田さん「このカード型電卓は電話帳機能がついていたり楽器のように音が鳴ったりと、ユニークな製品が数多く登場しました。拡大した競合他社が相次いで撤退していった時期でも、カシオは独自のアイデアを次々に形にすることで市場のニーズに合わせるのではなくむしろニーズを自ら作り出して行ったんです。」
100円で電卓が買える時代に、求められる価値とは。必要性を呼び起こす新たな挑戦。
井田さん「今、ダイさんは電卓のデザインに携わっていますが、どうですか?」
ダイさん「楽しんでやらせてもらっています。キーや液晶、ソーラーなどさまざまな要素が絡み合っていて、バランスを少し変えただけでも大きく変わってしまうんですよね。今回この場所を訪れて、電卓はやっぱり奥が深い分野だと思い知りました」
井田さん「樫尾俊雄さんが『発明は必要の母である』との言葉を残したように、『ユーザーがまだ気づいていないような必要性を呼び起こす』という姿勢を忘れずに、ぜひ色々と挑戦してみてほしいです」
ダイさん「いまや電卓自体は100円ショップでも買える時代ですけど、電卓の老舗メーカーとしてふさわしいデザインとはなにか、考え続けていきたいです」
カシオの中で、最も長い道のりを歩んできた「数」の物語。展示された製品に懐かしさや歴史を味わうだけでなく、それらの奥底に眠るカシオのDNAを感じ取ることで、新しいデザインのヒントを発見できたようです。
樫尾俊雄発明記念館
樫尾俊雄のかつての私邸であり、彼が次々と発明し、エレクトロニクス産業の発展に貢献した画期的な製品が展示されたミュージアム。完全予約制で無料でどなたでもご覧になれます。
〒157-0066 東京都世田谷区成城4丁目19−10
可視化された音の流れが、
プレイヤーの感性を刺激する
CASIO独自のHorizontal Bass-Reflex System(*1)によって実現した、高音質でありながらコンパクトなボディという
「CT-S1000V」の特徴。
これをデザインで表現するという課題もまた、難関のひとつでした。
そこで着目したのが、パンチングネット部分です。
プレイヤーが調整しながら生み出した音源が、アンプからスピーカーに送られ、音として流れる動きを、造形によって視覚的に再現。
さらに所有欲を刺激するため、パンチングネット越しに配置された大胆なCasiotoneのロゴや、緻密な立体造形にもこだわり、デザインが完成しました。